アメリカの大学に留学しようと思っている人にとって、「英語での授業についていけるのか?」という不安はつきものです。
このページでは、英語のハンデをかかえる留学生が、いかにアメリカの大学の授業を乗り切っていけばいいのかを考え、アドバイスしてみたいと思います。
目次
アメリカ大学の授業に臨む
1年生の最初にとる科目は何がいい?
1年生の秋学期。初めての、アメリカでの英語による授業が始まります。この学期ではどんな点に注意して履修科目を選んだらよいのでしょうか。
1年生の最初の学期で科目を選択するときは、無理してむずかしい科目ばかりをとらないようにします。アメリカの大学は、成績が悪い学生に対しての措置が厳しいので、まずは好成績を修めることを優先させて、なんとか「ついていきやすい科目」を選ぶように心がけましょう。
留学生にとって、数学やアートは英語力がなくてもやっていけるので「ついていきやすい科目」です。またフランス語やスペイン語といった外国語の科目は、多くのアメリカ人学生にとっても初めての内容なので、「ついていきやすい」科目です。これらはいずれも一般教養科目ですので、卒業単位になります。別の大学に編入する際にも移行できる単位です。
一方で、たとえば文学や歴史といったリーディング(教科書読解)の多い科目や、専門知識が必要となる経済学や心理学などは、かなりの英語力が求められます。最初の学期は避けたほうがいいかもしれません。
とはいえ、最初の学期であまり簡単な科目ばかりをとってしまうと、2学期目にむずかしい科目が集中してしまいかねないので、バランスを考えながら、そしてアカデミック・アドバイザー* にしっかり相談しながら、無理のない科目選択をするようにしましょう。
- * アカデミック・アドバイザー: 学生1人ひとりに割り当てられる先生です。科目登録や専攻決定の相談だけでなく、卒業までの学業全般にわたってアドバイスしてくれる、とても頼もしい存在です。
1週間の授業スケジュールの例
次に、一般的な学生の1週間の授業スケジュールを見てみましょう。
アメリカの大学の授業のスケジュールは週ごとに定められています。〈 1週間の授業時間=その科目の単位数 〉というのがおおよその目安です。アメリカの大学では1科目につき3単位得られる、というのが一般的ですので、1科目あたり週に3時間の授業があるということになります。たとえば「微分積分学:月・水・金曜日 9:00~9:50」とか、「経済学:火・木曜日 14:00~15:30」といった時間割になります。
1学期にだいたい 5科目=15単位とるのが標準的なとりかたなので、1週間の授業時間はだいたい 15時間ということになります。
上の表の例だと、English 3時間、Spanish 3時間、Biology 3時間、Communication 4時間、Art 3時間、Tennis 2時間などとなっています。
- ・ アメリカの大学の単位や成績のしくみについては、「単位と授業のしくみ」をご覧ください。
- ・ 1年生最初の科目選びについては、ぜひ留学体験記 「僕がどうやって2,500もの科目の中から5つの科目を選んだのか」(2021年03月02日)も読んでみてください。どうやって科目を選んだかが生き生きと描写されています。
授業はディスカッション中心
アメリカの大学の授業はディスカッション(議論)が中心です。宿題として読んできた教科書の内容をもとに、学生たちが意見を交わすことで、授業が進行します。教員は、そのディスカッションの進行役を務めます。
「自分の意見をもつこと」はアメリカではとても重視されます。そして、その意見をクラスメートに表明し、それに対する意見や反論に耳を傾けることで、1人ひとりの違いを認め合い、相互の理解を深めるというのがとても大切だと考えられてます。
たいていの日本人留学生が慣れていないディスカッションですが、黙っていると理解していないと見なされてしまいます。また、ディスカッションに積極的に参加することが、成績にもよい影響をもたらすので、少しずつでも発言していくようにしましょう。
ディスカッションに参加するためには、そのトピックについてよく理解していることが欠かせません。そのために教科書を読む宿題が出されます。つまり宿題=予習ということです。しかも、教科書に書かれていることを述べるのではなくて、その内容に対する自分なりの意見や疑問をもち、言葉として発しなければなりません。
とても厳しい学習ですが、自分の考えを聞いてもらえる・認めてもらえるという実感を得られれば、やりがいをもって取り組めるようになります。
授業を乗りきるには
予習がすべて
教科書を読み込んでおく
アメリカの大学の授業についていくためには、予習が欠かせません。
毎回の授業で、次の授業までに「教科書の27から58ページ」とか「10月13日号の TIME誌の15から17ページの記事」といった、読む宿題が出ます。(読む宿題のことを Reading Assignment といいます。)
授業では、宿題として読んできた内容について学生たちが意見を交わします。したがって「宿題」=「予習」となるわけです。
発言内容を考えておく
予習していなければ、自分の考えを言うこともできないし、クラスメートの発言に意見を述べることもできません。逆に予習さえしっかりしておけば、授業でなにかしらの意見なり疑問なりを言うことができるはずです。
「自分の意見を述べる」という授業に慣れていない日本人留学生は、ディスカッションでもついつい黙りがちになります。しかし、きちんと予習をして「今日はこのことを言おう」とリハーサルをして授業に臨めば、あとはちょっとした度胸で、発言できるようになります。
留学生らしさを生かす
大切なのはオリジナルでユニークな発想
アメリカの大学では、授業も、リーディングも、ディスカッションもすべて英語です。日本人留学生にとって、これはたしかにハンデになります。
しかし、アメリカの大学で問われるのは英語力ではありません。問われるのは、その科目で扱うトピックについての理解力であり、オリジナルでユニークな意見や発想です。
「オリジナル」で「ユニーク」であるという点においては、留学生はアメリカ人学生に比べて、1歩先に出ています。日本人ならではの価値観や発想は、それだけで十分にオリジナルかつユニークなものとして、アメリカの授業では歓迎されるからです。
「自分らしさ」を発揮しよう
ディスカッションでは、他のクラスメートの意見に同調する必要はありません。むしろ、さまざまな視点や見方を交わすことのほうが大切です。「多様性」はアメリカの大学ではとても尊重されます。
つねに「あなたならどうするか」「あなたはどう考えるか」が問われるアメリカの大学。英語のハンデにおじけづく必要はありません。「あなた」らしい考えかたをのびのびと育てていけばいいのです。
日本で予習しておく!
留学生がアメリカの大学の授業を乗り切るコツは、「前もってその授業の内容を知っておく・予習しておく」ということです。 どんなことをすればよいのでしょうか。
じつは、アメリカの大学の授業の予習は、日本ですることができます。
アメリカのそれぞれの大学の Webサイトには、その大学で開講している科目の「講義概要」(Course Descriptions)が載っています。これを見れば、その科目がどのようなトピックを扱うのか、おおよそのことを知ることができます。
予習教材として最適なシラバスを読もう
また科目によっては、「シラバス」(Syllabus)も Webサイトに載っています。シラバスは、その科目の授業進行予定表で、その科目の
- 主旨
- 授業のスケジュール
- テキスト・副教材
- 成績のつけかた
- テストの日程と内容
- 宿題・課題
- ペーパー(レポート)の内容・長さ・提出期限
などが記載されています。
このシラバスを読めば、その科目の全体像だけでなく、毎回の授業で扱うトピックや宿題もわかります。つまり予習の最適なパートナーです。
自分がめざす大学のシラバスが見つからなくても大丈夫です。たとえば「心理学概論(Introduction to Psychology)」などは、どの大学でも一般教養科目として学べる科目です。大学によってその内容がいちじるしく異なるということもありません。
わかりやすく書かれているシラバスをインターネットで探して、それを丹念に読み込めば、「なるほど、心理学の基礎的な内容ってこういうことなんだな」というイメージがつかめます。その内容について、まず日本語のWebサイトや書籍で知識をつけておけば、実際にアメリカの大学で授業に出た際にも、意外とすんなり頭に入ってくるはずです。
アメリカの大学に留学して授業を乗り切るカギは、「日本での予習にあり」といってもいいのです。
宿題をどうこなすか
宿題は予習を兼ねる
アメリカの大学の宿題は、授業の予習を兼ねています。「次の授業までに教科書の第3章を読んでおくように」などと授業ごとに宿題が出されます。授業は、宿題として読んできた内容をもとに、学生たちが意見を交わす=ディスカッションによって進行します。
アメリカの大学生活における宿題の大部分は、この「読む宿題(Reading Assignment)」です。1つの科目について、毎回の授業で出される「読む宿題の量は 20~50ページくらいです。かなりの分量です。とくに英語(アメリカでは国語)と歴史の予習の量はたいへんなものです。
反対に、数学や外国語、アートなどの科目はリーディングはそれほど多くありません。さきほど述べたように、科目選択にあたっては、リーディングが多い科目とそうではない科目をバランスよく組み合わせることが大切です。
教科書を読むコツ
留学生にとって、リーディングの宿題ほど泣きたくなる宿題はありません。効果的な教科書の読みかたを身につけられるとよいのですが、それほど簡単ではありません。
一般的には、ある章を読む宿題が出た場合、冒頭から読むのではなく、章全体の構成を把握してから読むのがコツです。アメリカの教科書は、章ごとに “Chapter Summary” といってその「章のまとめ」が箇条書きされています。まずこの Summaryを読み、そして章全体にざっと目を通し、太字や大きな文字、図、写真、グラフなどから、章全体の構成を把握します。
そのうえで全体を読むのですが、その際は重要だと思われる箇所を重点的に読むようにします。この「飛ばし読み(Skimming)」ができるようになれば、教科書を読むコツを身につけたといえるでしょう。
また、日本語で理解していないことを英語で理解するのはとても大変ですので、まず日本語で知識を得ておく、というのも遠回りのようですが効果的な読書法です。文学のクラスなどで読む小説などの作品については日本語訳のものを用意して読んでおくといいでしょう。
またインターネットを活用して、教科書に書かれている内容に相応する日本語のサイトに目を通しておくことで、教科書の内容も頭に入りやすくなります。
アメリカ大学のレポート(ペーパー)
かなりの時間が必要
アメリカの大学では、日本の大学のレポートあるいは小論文のことを「ペーパー(Paper)」といいます。学生1人ひとりがそれぞれにテーマを掲げ、それについてリサーチした結果をまとめ、記述します。教科書や授業で理解したことを書くのではなく、自主的なリサーチに基づいたオリジナルの内容を書かなければならないのがペーパーです。
たくさんの文献や資料にあたって、そのうえで自分なりの見解や意見を書かなければならないので、かなりの時間とエネルギーを費やすことになります。
ペーパーの種類
アメリカの大学のペーパーは、以下の3種類に大別されます。
タームペーパー(Term Paper)
学期末に提出するペーパーのことです。学期のはじめあるいは半ばくらいに課題が出され、それから時間をかけてリサーチし、期末までに書き上げます。レターサイズ(A4に近いサイズ)で10~30枚くらいです。「ターム」とは「学期」のことで、二学期制における「セメスター」と同義です。
ショートペーパー
2、3枚から多くて5枚くらい、単語数でいえば1,000~1,500字くらいの短いペーパーです。学期の途中で数回書かされることもあります。
実験レポート(Lab Report)
サイエンス系の科目でよく見られるペーパーです。実験の目的・プロセス・結果・分析を記します。グラフや表を多用します。
出典を明記する
ペーパーを書く際には、たくさんの資料や文献を参考にしたり引用したりします。その際に忘れてはならないのが、出典を明記することです。アメリカは知的所有権をとても重視していますので、学生といえども、他人の文章や語句を、出典を記さないで自分のペーパーに引用すること(Plagiarism[プレイジャリズム]:盗用・剽窃)は、違法です。
Plagiarismが発覚すれば、それだけでそのペーパーは0点です。ペーパーだけでなくその科目の成績がF(不可)になることも覚悟しなければなりません。
最近では Webサイトからの無断引用(コピー&ペースト)が大きな問題になっています。きちんと出典を明記すれば何の問題もありませんし、引用した文献(ネット文献であっても)が多いほど、それだけしっかりしたリサーチをした証にもなりますから、出典の記載を怠らないようにしましょう。
アメリカの大学の学業サバイバル
図書館とコンピュータ
アメリカの大学での学業を乗り切るカギを握るのが、図書館とコンピュータの利用です。
図書館の利用方法は、入学時のオリエンテーションでの図書館案内(Library Tour)で示されます。本の検索方法、書棚の分類、スタッフの紹介、貸し出しのルールなどの説明を受けます。大学によっては、24時間オープンの図書館もめずらしくありません。自分の大学の図書館に必要な本がない場合は、司書(Librarian)に頼んで取り寄せることもできます。
コンピュータはペーパーを作成するのに必須ですし、統計をとったりプレゼンテーションをしたりするときにも必要です。インターネットを利用してリサーチしたり、Eメール等で教授とやりとりするのに欠かせません。日々の授業でもコンピュータが必要になります。日本の情報を得たり、日本の家族や友だちとの連絡にも必要です。文書作成・表計算・プレゼンテーションのソフトは使えるようにしておくといいでしょう。
アメリカの大学のコンピュータでは日本語が使えないので、日本からノートパソコンを持って行くのがいいでしょう。寮や図書館、教室に限らずキャンパス全体にわたってネット環境は整っています。
教授との接しかた
アメリカの教授は、学生に対してオープンでフレンドリーです。とくに留学生にはやさしく、温かく接してくれます。教授とよい関係を築くことは、学業生活を乗り切るうえでとても大切です。
すべての教授はオフィスアワーを設けています。これは教授が必ず教授室にいて、学生からの質問や相談に応じる時間です。オフィスアワーであれば予約をとることなしに教授に会うことができます。
教授は勉強の内容に関する質問にはすべて答えてくれます。ペーパーについてもアドバイスをもらうことができますし、予習のポイントを聞くこともできます。授業についていけないかもしれないと思ったら、臆せずすぐに担当教員に相談しましょう。きっと何らかの打開策を提案してくれるはずです。
チューターに頼ろう
アメリカの大学にはチューター(Tutor)という頼りになる制度があります(日本でもこれを取り入れる大学が増えてきました)。チューターとは、補習指導をしてくれる学生のことです。教科ごとに、その科目を過去にとったことがある優秀な上級生がチューターとして個人指導してくれます。
チューターは Learning Centerとか Academic Skills Centerと呼ばれるところで紹介してもらえます。チューター制度の利用にお金はかかりませんから、留学生は大いに利用したいものです。チューターは学ぶ人の立場に立ってアドバイスしてくれます。
Writing Centerで英文をチェック
多くの大学では Learning Center とは別に、あるいは、その一部門として、とくに英作文のアドバイスをする Writing Center(Writing Lab)を設けています。ここでは、おもにペーパーを書くプロセス全般について指導してくれます。ここでアドバイスをする人たちの多くはEnglishを専攻している大学生です。ペーパーのアウトラインから文法、表現のチェックをしてくれます。
こうした Study Aids(学習の手助け)は留学生だけでなく、アメリカの学生も積極的に利用しています。アメリカの大学は助けを求めれば、それに答えてくれるシステムを備えていますので、しっかり活用して学業生活を乗り切りましょう。
- ・ 留学体験記「25ページの英語論文を提出! アメリカの大学のリサーチとは?」(2020年03月12日)では、アカデミック・アドバイザーに相談したり、Writing Centerを利用したりしてレポートを仕上げていく過程が描写されています。
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