交換留学制度を利用して留学する学生が増えています。
交換留学とは、日本の大学に在籍しながら、その大学(または学部)が学術交流協定を結んでいる海外の大学へ、1学期や1年間留学することです(もっと短い場合もあります)。
このページでは、年々ニーズが高まっている交換留学について解説します。「卒業を目的とした留学」との違いについても見てみましょう。
もくじ
- 1.交換留学とは
- 2.データで見る交換留学
- 3.交換留学のメリット
- 4.交換留学のデメリット
- 5.海外の大学を卒業するなら
1. 交換留学とは
交換留学とは、在学中の日本の大学から、その大学が「学術交流協定」を結んでいる海外の大学へ留学することをいいます。
期間は、一般的には1年間もしくは1学期間。大学によっては「交換留学」といわずに「中・長期留学プログラム」と呼んでいます。「派遣留学」といういいかたもあります。
留学期間が決まっているのでその期間を終えると日本の大学に戻ります。プログラムによっては留学中に取得した単位が日本の大学の単位として認められます。
大学ごとにいろいろなプログラムが用意されています。語学を中心に学ぶプログラムや、留学先の大学の通常の授業を受けるプログラム、また留学先の大学と日本の大学の両方を卒業する「ダブル・ディグリー・プログラム」などもあります。
交換留学プログラムの例:
たとえば早稲田大学ではおよそ400校の大学と協定を結んでいて、さまざまな留学プログラムを設けています。参加したいプログラムを選んで、学内選考を受けます。選考基準は英語力や成績、作文などです。学内選考を通過すると、早稲田大学からの推薦を得て、留学先の大学からの審査を受けます。
留学プログラムは春学期と秋学期にあって、そのほか夏休み・春休みの短期に実施されるプログラムなどもあります。
2. データで見る交換留学
近年、日本の大学は国際化にとても力を入れていて、留学プログラムをどんどん充実させています。
2023年3月に発表された日本学生支援機構(JASSO)の「2021(令和3)年度日本人学生留学状況調査結果」によると、2021年度には全国の大学から10,999人の学生が留学しました。コロナの影響で激減していますが、この影響をこうむる前(2019年度)には6万人以上の日本人が協定校へ留学しています。したがって以下には、コロナ禍前のデータを載せます。
文部科学省の「学校基本調査」によると、2019年度の日本の大学生数は2,918,668人ですので、中・長期の交換留学をしている学生は0.6%程度ということになります。
交換留学の留学期間はどれくらいか?
海外の協定校へに留学する学生は、その大半が1か月未満の短期留学となっています。3か月以上6か月未満の留学が 8,557人、6か月以上の留学が 8,390人、1年以上の留学では 1,401人です。
留学期間別日本人留学生数
1か月未満 | 1か月以上 3か月未満 |
3か月以上 6か月未満 |
6か月以上 1年未満 |
1年以上 | 計 |
---|---|---|---|---|---|
40,514人 | 7,588人 | 8,557人 | 8,390人 | 1,401人 | 66,450人 |
※ 日本学生支援機構「2019(令和元)年度日本人学生留学状況調査結果」を元に作成
交換留学が盛んな日本の大学は私立が多い
短期も含めて留学する学生が多い大学は、早稲田大学、芝浦工業大学、関西学院大学、立命館大学、立教大学などです。国立の上位校は東京大学だけで、あとはすべて私立です。
協定等に基づく日本人学生派遣数の多い大学
学校名 | 国公私 | 派遣数 |
---|---|---|
早稲田大学 | 私立 | 1,661人 |
関西学院大学 | 私立 | 1,632人 |
芝浦工業大学 | 私立 | 1,345人 |
立命館大学 | 私立 | 1,303人 |
立教大学 | 私立 | 1,100人 |
関西外国語大学 | 私立 | 1,095人 |
東京大学 | 国立 | 985人 |
明治大学 | 私立 | 975人 |
慶應義塾大学 | 私立 | 913人 |
東洋大学 | 私立 | 864人 |
※ 日本学生支援機構「2019(令和元)年度日本人学生留学状況調査結果」を元に作成
一番人気の留学先はアメリカ
留学先を国別で見ると、アメリカ、オーストラリア、カナダ、韓国、イギリスなどが人気です。アメリカはとくに人気が高く、中・長期の留学者の多くがこの国の大学を選んでいます。
また、短期留学ではアジアが人気が高く、1年以上の長期になるとヨーロッパが人気です。
国(地域)別日本人留学生数
国(地域)名 | 留学生数 | 2019年度 | 2018年度 |
---|---|---|
アメリカ合衆国 | 11,743人 | 12,350人 |
オーストラリア | 6,594人 | 6,786人 |
カナダ | 6,217人 | 6,583人 |
韓国 | 5,199人 | 5,790人 |
英国 | 4,265人 | 4,115人 |
中国 | 4,117人 | 5,569人 |
タイ | 3,510人 | 3,806人 |
台湾 | 3,361人 | 3,760人 |
マレーシア | 2,334人 | 2,020人 |
ドイツ | 2,052人 | 2,015人 |
その他 | 17,058人 | 17,747人 |
計 | 66,450人 | 70,541人 |
※ 日本学生支援機構「2019(令和元)年度日本人学生留学状況調査結果」を元に作成
交換留学先の専攻分野は?
交換留学においては、人文科学を専攻している学生が多く、次いで社会科学、工学が多くなっています。
留学先の大学の単位を日本へ持ち帰るためには、基本的には日本の大学の学部と同じ分野の科目をとる必要があります。
専攻分野別日本人留学生数
専攻分野 | 留学生数 | 2019年度 | 2018年度 |
---|---|---|
人文科学 | 37,910人 | 41,394人 |
社会科学 | 6,470人 | 6,153人 |
理学 | 879人 | 863人 |
工学 | 5,459人 | 5,995人 |
農学 | 1,646人 | 1,864人 |
保健 | 3,836人 | 4,144人 |
家政 | 231人 | 491人 |
教育 | 1,340人 | 1,565人 |
芸術 | 511人 | 590人 |
その他 | 8,168人 | 7,482人 |
計 | 66,450人 | 70,541人 |
※ 日本学生支援機構「2019(令和元)年度日本人学生留学状況調査結果」を元に作成
3. 交換留学のメリット
交換留学にはどんなメリットがあるでしょうか。
- 授業料は不要(日本の大学のものだけでOK)
- 留学しても日本の大学を4年で卒業できる
- 就活でアピールできる
- 日本の大学がサポートしてくれる
- 海外の難関大学でも比較的参加しやすい
交換留学は、日本の大学に籍を置いたまま留学するものなので、留学先の大学の授業料を支払う必要がありません(留学中も日本の大学に授業料を納めることになります)。
また各大学をはじめ、JASSO(日本学生支援機構) や「トビタテ!留学JAPAN(文部科学省)」などの奨学金制度があります。費用面では、かなり利用しやすい環境が整ってきているといえます。
また留学中に取得した単位は、日本の大学の単位に組み込める場合があります。したがって卒業が遅れるということもありませんし、就職活動にも支障が生じません(留学時期にもよります)。
交換留学は、大学での審査を経て(大学から推薦されて)行うので、交換留学経験者はそれだけ優秀であるとみなされます。就活にも有利になるでしょう。
また留学にあたっては日本の大学がさまざまな面でサポートしてくれます。ビザ申請や滞在先の確保など、専門のオフィスが細かくアドバイス、サポートしてくれるので、安心して留学に臨めます。
また通常はなかなか合格できないような海外の難関大学でも、交換留学制度を活用すれば受け入れてくれることがあります。一般的に、通常の留学に比べると入学基準はゆるやかです。
半年から1年にわたって留学できるのは、学生の特権です。社会人ではなかなかこんなチャンスは訪れません。
4. 交換留学のデメリット
交換留学のデメリットとしては次のようなものが考えられます。
- 日本の大学の学内選考がある
- 留学先の大学から入学許可が必要
- 語学系のプログラムだと単位を取得できないことがある
- プログラムの種類や定員に限りがある
- 希望どおりの科目が選べない場合がある
- 科目によっては日本の大学で単位が認められない
交換留学をするためには、まず日本の大学での審査(学内選考)を通過しなければなりません。審査に必要な要素は、
- 学業成績(GPA)
- 語学力(TOEFL®スコアやIELTS™のスコアなど)
- 志望動機をつづった作文
- 指導教員からの推薦
といったものになります。
審査に通ったら、次は留学先の大学からの入学許可が必要です。つまり2段階の審査になり、希望すればだれもが好きなところに留学できる、というわけではありません。
とくに現地の大学で(語学研修ではなく)、通常の大学のカリキュラムの授業を受けて単位を取得するプログラムになると、かなり高い英語力が求められます。
一方で、語学を中心に学ぶプログラムでは、参加がしやすいのはたしかですが、大学の単位を得にくいというデメリットがあります。その場合、日本の大学の単位が足りなくなり、留年を余儀なくされるかもしれません。また学ぶ内容も「大学」に留学するというよりは、いわゆる「語学留学」と変わらないというケースもあります。
また、大学によっては協定を結んでいる大学の数が少なくて、留学先の選択肢が限られてしまいます。必然的に競争率も高くなります。そもそも交換留学制度を設けていない大学も少なくありません。
留学先での科目選択においては、その大学の学生が優先されるので、必ずしもとりたい科目をとれるわけではありません。単位を持ち帰るためには、基本的には日本の大学の学部と同じ分野の科目をとる必要があり、異なる分野の科目をとっても単位が認可されないこともあります。
メリットがたくさんある交換留学ですが、制約もあり希望通りにはいかないケースもあるので、自分の大学の情報をよく調べておきましょう。
交換留学については、 栄 陽子の留学コラム「学生が陥りがちな交換留学と認定留学の罠」もあわせてお読みください。
5. 海外の大学を卒業するなら
日本の大学生が留学を考える場合、交換留学のほかに「編入留学」という選択があります。
編入留学では、一般的に、
- 日本の大学を退学し、
- それまでに取得した単位を海外の大学に移行し、
- 海外の大学の2、3年次に編入して、
- 海外の大学の大学生として卒業する
ということになります。
アメリカの大学は、卒業単位の半分(およそ60単位)まで、別の大学(放送大学のような通信制の大学も含めて)で取得した単位を認めてくれます。60単位を認められれば、3年生として編入することになり、2年後の卒業が可能です。
編入留学の期間は短くても2年。その間、その大学の学生たちといっしょに授業を受け、生活します。
編入するにあたっては、希望の大学に出願し、合格しなければなりません。学業成績、作文(エッセー)、推薦状、課外活動、語学力などが審査対象です。
交換留学に比べるとハードルが高い感じがしますが、大学の選択肢は比較にならないほど幅広くなるので、チャンスが小さいことはありません。しかも、アメリカの大学は留学生にも返済不要の奨学金を出してくれます。
現地の学生と机を並べて、英語「で」科目を学ぶことになりますから、けっこうハードな日々を送ることになります。そのぶん、卒業するまでには相当の英語力と学力と自信が身につきます。学友との絆も深まることでしょう。
- 半年や1年の交換留学ではもの足りない
- もっと本格的な留学体験をしたい
- 日本の大学とは別の分野を学びたい
- 厳しい環境に飛び込んでみたい
- いままでと違った生きかたをしてみたい
といった人には、編入留学が向いているかもしれません。
編入留学についてより詳しく知りたいかたは、こちらも参考にしてください。